現行法の遺留分と遺留分制度に関する見直し

1.遺留分とは

 「父の死亡後、公正証書遺言を開けてみたところ、全財産を相続人の一人に相続させるという内容でした。」
 このようなときに「遺留分」という言葉を聞いたことがありますか。
 遺言により、遺言者の意思が尊重されるとしても、相続人に対し、最低限度保証している相続分を遺留分といいます。

 

2.遺言に納得できないとき

 遺言に納得出来ないときは、次のことを検討してみましょう。

(1)遺言の要件が整っているかの確認
 自筆証書遺言は要式行為という民法上の要件を備えている必要があります。

(2)遺留分減殺請求権の行使
 遺留分減殺請求は、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年、相続開始後10年で時効になるので、ご注意下さい。
 遺留分減殺請求の意思表示を証拠として残すため、内容証明郵便を活用することが望ましいでしょう。

 

3.遺留分の割合

相続人 遺留分
1/2
配偶者 1/2
配偶者と子 1/4・1/4
父母 1/3
配偶者と父母 2/6・1/6
兄弟姉妹 なし
配偶者と兄弟姉妹 1/2・なし

 

4.遺留分減殺請求の効果

 遺留分減殺請求権は「形成権」と呼ばれています。
 形成権とは、合意等は要せずに請求をしたことによって法律上の効果が生じることを示します。
 遺留分減殺請求を行使すると、遺留分を侵害した人(遺贈を受けた人等)と遺留分減殺請求者との間で共有状態となります。
 遺留分減殺請求者がこの時点で特定の財産を取得するのではなく、遺留分(例えば4分の1)の持分を取得することになります。
 このため、預金のみといった選択はできません。

 

5.特定の財産を取得するには

(1)価格弁償
 民法第1041条(遺留分権利者に対する価額による弁償)1項では、次のように定めています。
 「受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。」

 遺留分を侵害したもの側からは、金銭を支払うことによって共有状態を解消することができます。
 例えば、遺留分を侵害したものが特定の不動産を単独所有したい場合などに利用できます。
 この価格弁償は、遺留分減殺請求者からは請求できないことに注意が必要です。

(2)遺留分減殺請求による代物弁済
 遺留分減殺請求者と遺留分を侵害したものとの合意によって、遺留分減殺請求者が特定の財産(例えば特定の不動産)を取得するにはどのようにすればよいでしょうか。
 上記の価格弁償は金銭を前提としていますが、不動産を提供することによって実現することができます。
 これを「遺留分減殺請求による代物弁済」といいます。
 ただし、不動産取得税については「非課税対象となるか否かは本件土地が相続財産に属するか否かによって決せられることになる」との下級審の判決がありますので、注意が必要です。
 平成21(行ウ)15 賦課決定処分取消請求事件

 

6.話し合いがつかないとき

 家庭裁判所の調停を利用することを検討してみましょう。
 「遺留分減殺による物件返還請求調停」は、当事者間で話し合いがつかないとき(話し合いができないときを含む)に活用することができます。
 ただし、遺留分減殺請求は事前に内容証明郵便等で済ませておく必要があります。

 

7.補足(民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案) 遺留分制度に関する見直し)

 なお、民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)では、遺留分制度に関する見直しとして、次のような改正が予定されています。
 この改正がされると、上記のような流れの手続きの煩雑さを解消できるようになります。

 「遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている現行の規律を見直し、遺留分権の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずるものとしつつ、受遺者等において、金銭の支払に代えて、受遺者等が指定する遺贈等の目的財産を給付することができるようにする。」

 

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